画商の目

 梅田画廊は、阪急美術部洋画廊に在籍していた祖父、土井憲治が昭和17年に独立創業(創業当時の名称は天賞堂画廊)いたしました。当時、他の百貨店の美術画廊は、日本画に力を入れており、洋画には無関心だったそうです。そんな環境の中で、洋画廊を充実させていた阪急百貨店は画期的に感ぜられたと聞きます。独立に際しては、組織体制の確立されていた日本画界に比して洋画商の将来性や可能性にやりがいを見出し、迷わず洋画専門の画廊として創業しました。まだ歴史の浅い日本の洋画を作家と共に発展させて行けることに喜びを感じたそうです。開廊70年近く経た現在でも、作家物(作家の書き下ろし作品)の洋画を中心に扱う基本方針は変わっておりません。創業当初から多くの作家の方々から作品をいただき、個展あるいは、企画展を開催して参りました。当時書き下ろしであった作品の中には、時を経て今では骨董的な価値さえ帯びているものもあります。こうした物故作家(かつての現存取引作家)の作品と現存作家(現在のお取引作家は70名ほど)の新作による企画展・グループ展等が営業の柱です。
   絵画を取り巻く環境や人々の生活様式の変化につれ、作品の内容も多様化してきております。近年では、コンテンポラリーアートが活況を呈し、アートフェア等でも多くの来場者を集めて好成績をあげているようです。従来の感覚とは異質なものや奇抜な作品も見受けますが、多くの人がアートに興味を持ち親しむ為の一つのステージを造っているように感じます。当画廊では、現在のところコンテンポラリー系の作家を取り扱ってはおりませんが、現状を把握しつつ動向を見守りたいと思います。
 昨年のリーマンショック以降の景気低迷で、業界も随分冷え込んでおります。近年すっかり定着した公開オークションでの落札価格も低迷傾向で、これは多くのコレクターも周知のことと思います。(裏を返せば、従来の何分の一かの予算で良い作品を探すことのできる機会とも言えます。)絵画の市場評価は、時世により振幅があります。同じ作品にも関わらず、時代の流れの中で価格評価が高まったり、低くなったりすることがあります。しかし作品の内容そのものが不変なのは当然です。魅力のある作品であれば、価格の振幅はあれど時代を越えて大切に引き継がれてゆくものです。当画廊でも、長い歴史の中で一度お世話させていただいた作品を2度、3度とお取扱させていただく事が多くあります。目まぐるしく流動する環境の中で「見る目」を働かせ、混沌とした世の中にあっても、これからも残してゆきたい作品、残り続けるであろう作品を新旧問わず提案できればと思います。現在お取扱させていただいている作家の作品が、将来何世代にも渡って人々を魅了し大切に扱われていってほしいと考えております。

株式会社 梅田画廊
土井 俊弘