古代の染料植物と色素成分

 日本の古代の染色は草木の花などをすり付ける摺染(スリゾメ)であったが仁徳期頃に中国から浸染の技法が伝えられ、 明治の合成染料導入までの800年間は植物染料の独壇場であった。 これらの植物染料のうち色素成分の分かっているものを記載する。

1)黄色系

きはだ(黄木)

飛鳥時代以前より用いられ、染色には樹皮を用い、媒染材なしで鮮黄色に染まる。色素名:ベルベリン(berberine)

おうれん(黄連)

染色には根茎を用いる。主色素はベルベリンであるが、類似の黄色色素も数種含まれる。

かりやす(刈安)

近江刈安(黄染草)と八丈刈安(こぶなぐさ)の2種のイネ科植物があり、全草を染料とする。染着が困難なので反復染色する。煮汁だけでは淡黄色、灰汁や明ばん媒染で緑黄色、鉄媒染で暗緑褐色に染まる。色素名:アルトラキシン(arthraxin)とルテオリン(luteolin)

うこん(欝金)

染色には根茎を用い、梅酢またはクエン酸で美黄色に。染色裂れをホウ酸水に浸してから乾燥すると赤橙色になる。色素名:クルクミン(Curcumin)

くちなし(梔子)

果実の煎汁で黄色に。灰汁または明ばんで明黄色。日光には比較的弱い。色素名:クロシン(Crocin)カロチン類の一種。

えんじゅ(槐花)

蕾の乾燥物で染色する。明ばん媒染で鮮黄色、石灰で黄ないし青黄色、 鉄媒染で暗緑色。色素名:ルチン(rutin)

はぜのき(はじ)

心材を煮出し染める。木灰媒染で黄色、鉄媒染でほとんど黒色。色素名:フスチン(fustin)

2)赤色系染料

あ か ね(茜)

最も古くから用いられ、根の煮汁で染色。単一染めでは黄橙色であるが、灰汁で媒染すると赤色。色素名:プソイドプルプリン(pseudopurpurin)

西洋あかね

裂れのアルコール抽出液は黄色で、アルカリ性にすると紫色。重曹で赤紫色、炭酸ソーダで橙色。色素名:アリザリン(alizalin)

べにばな(紅花)

花の乾燥品または紅餅 (生花を圧し固めたもの)を灰汁で抽出(黄褐色)し、梅酢またはクエン酸を加えて鮮紅色に。色素名:カーサミン(Carthamin)

すおう(蘇芳)

材の粗粉を用い、 煮汁は黄褐色で、明ばん媒染で赤緋色、灰汁で紫赤色、鉄媒染で紫色。色素名:ブラジレイン(brazilein)

(後編に続く)
荘一