32歳美術商の思い

 私がこの世界に興味を持ったきっかけは、学生のときに父の手伝いとして、数々のお客様のご自宅にお伺いしたとき、必ず応接間に通して頂いてると気付いたときでした。
 様々な仕事がある中、応接間に通して頂ける仕事が他にあるだろうか?そう感じたとき、このような良い仕事をしてみたいと思ったことを今でも昨日のことように憶えています。
 その思いから十数年がたち、まだ経験不足な私がこのようなことを言える立場ではないかもしれませんが、近頃強く感じるのは、美術商は「良い仕事」であっても「凄い仕事」ではないということです。「塩谷さんの仕事は?」と尋ねられ、「美術品を扱う仕事をしてます」と言うと、「凄い仕事してるなあ」「めっちゃ勉強せなあかんやろ」と返答が返ってきます。お客様の中には、私に対して「先生」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
 そのたびに、自分自身が「凄い人」・「偉い人」のような気分になってはいけないと常に戒めています。
 私たちの仕事は、各分野で働いている皆様たちと同様、専門的な知識を日々学び役立てているに過ぎないということ。あくまでも一人の商人あり、「凄い」「特殊」と勘違いしないよう心がけていくことが大切なのだと思います。
 また、そう思う反面、与えられている使命とも言うべき、役割の大きさを感じます。美術商である私たちが、皆様のより身近な存在となり、日本の文化・伝統を守り伝えながら、新しい文化を発信していくこと、そして同世代の人たちにいかにして、良さを知っていただき、興味を持っていただくのかということも、私たち世代の美術商の課題と考えます。
 弊店は阪急百貨店において買受という仕事をさせていただいています。
 そのために多くのお客様から、処分のご依頼をお受けいたします。適正な評価額をご提示することはもちろんですが、一番心がけていることは、お客様がお持ちの大切なお品物に対して、丁寧かつ親切に取扱うこと、なぜこの金額になるのかということをわかりやすくご説明することと考えています。
 それは、たとえ評価額の高い低いに関係なく、品物には、たくさんのお客様の思い出やお気持ちが詰まっており、そのお気持ちをご理解し、ご納得いただける説明をすることが、私の美術商として与えられた大切な役割の一つと感じています。
 さまざまなお客様と出会えるこの場所で、商いをさせていただいていることが、何よりの修行であると感じ、初心を忘れることなく、これからも励んでまいりたいと思っています。

雅翔堂 塩谷商店
塩谷 将庸